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そうべつへのいじゅう 

自宅前の景色(2023年11月撮影)

2023年11月 - 足踏みミシン(アンティーク ミシン)

2023/12/22

二階の納戸の奥に古い足踏みミシンがありました。

移住する前、家の内覧(「2019年05月-壮瞥物件の内覧」)をしたときに、納戸に古い足踏みミシンが置いてあるのを見つけました。家内がそれを見て喜び、物件を決める一つのきっかけにもなりました。家内は昔、足踏みミシンを使っていたことがあり、いつかは欲しいと思っていたようなのです。後でわかったことですが、そのミシンは家主が持っていくつもりだったようなのですが、気に入ったことを伝えると快く譲ってくれました。きっと相当な思い出が詰まっていたのだと想像します。

その時はキャビネットテーブルが置いてあるのを見かけただけで、中のミシンまで調べたわけではありませんから、使えそうなものなのかどうか全く見当もつきませんでした。それでも、時間を見て使えるようにしてみるという約束をしました。

ガラクタと一緒に放置されたミシン
 

移住してしばらくは菜園を作ったり庭の整備をしたりと外仕事が多く、ずっと手付かずでしたが、今年になって納戸の奥から引っ張り出し、いつでも手入れできるようにはしていました。そのミシンは非常に重く、中にミシン本体が収納されていることも確認しました。きっと家主は重たいから運べず、置いて行ったのでしょう。

そして、暇になったら手を付けようと思いながら、ずっとほったらかしにしていました。しかし、寒くなってきたころから、家内が何か冬物の縫物をしたいということで催促が始まりました。そのうち、安いものでいいからミシンを買いたいと。

11月に入って天気の悪い日が続いたので、いよいよミシンの手入れに着手することにしました。まずは、虫を払って埃を取るところからです。納戸は内装がされていない(内側の壁がない)ため、壁の隙間からカメムシやテントウムシ、クモなどの虫がたくさん入り込んでいます。一日かけて雑巾で掃除し、なんとか部屋に持ち込めるくらいにはしました。

引っ張り出してきたミシン
 

キャビネットテーブルからミシンを出してみると、古いSINGERのミシンでした。ネットでいろいろ調べているうちに、このような足踏みミシンはいまではアンティークミシンと呼ばれているということがわかりました。今でも根強い愛好者がいるようです。シリアル番号から調べると、1935年にイギリスの工場で製造された Model 15K というミシンだということがわかりました。意外と昔の記録が残っているものです。88年も前に作られたようには見えないのが驚きです。

1935年 イギリス製 SINGER Model 15K
 

かなり使い込まれ、あちこち擦り減ったり、模様がかすれていたり、オイルが付いた部分が黒くなったりしていましたが、それでもハンドル(プーリー)を回してみるとかなり重たいながらも異音もせずに動くようです。汚れてはいましたが、駆動部には目立った錆もありません。ちゃんと手入れして使われていたことが伺えます。

まずは、できる限り分解せずにメンテナンスする方向で作業を始めました。昔、動きの悪くなった時計を分解して元に戻らなくなったことは一度や二度ではありません。ゴミや埃を取り除いて可動部にオイルを差してハンドルを動かしてみると、針が上下に動いて基本的な動作は大丈夫そうです。数十年は放置されていたと思われるものが、まだ使えそうだということはすごいことです。

汚れたり擦り減ったり
 

さすが、マシン(ミシン)です。電気で動くものとは訳が違います。今は電気を使って、取ってつけたような構造に、複雑な(バグだらけの)ソフトウェアで無理矢理コントロールするようなものばかりです。現代にこんなにシンプルで頑丈なものを作れる技術者なんているのでしょうか。ミシンに限らず現在製造されているもので100年後にも使えるものなんて存在するのでしょうか。

これだから、電気工学専攻なのに建築や機械の方が面白くて優れていると思ってしまうのです。明らかに専攻を間違えたのか、いや、電気工学を専攻していたからこそ、その後も好きでもない分野の知識が身につき、結果、幅広い見地を身につけることができたので大正解だったのかもしれません。

油で黒ずんでいたり
 

掃除をしていて気が付いたのは、キャビネットテーブル部分は金具以外すべて木製で、ミシン本体もほとんどが金属製だということです。例外は一個のゴム輪と一本の皮ベルトだけです。あとはすべて金属と木で作られているのです。どおりで重たいわけです。さすがにゴム輪は変質してしまって使い物になりませんが、ほかは何とか使えるようにできそうな気がしてきます。現代の使い捨ての製品とは全く出来が違います。これはなかなかやり甲斐がありそうで、そして俄然、やる気が出てきました。

劣化したゴム輪
 

ミシンのことなど何も知らないのでネットでいろいろと調べてみました。当時の国産ミシンは、このSingerのミシンをまねた統一規格で作られていたようで(HA-1型と呼ばれているようです)、パーツも共通した仕様になっているようなのです。そのため、アンティークミシンの部品を扱っているところで、大体の部品は入手できそうだとわかりました。まずは、必要な部品の手配です。

少なくとも、変質しているゴム輪は交換しなければなりません。皮ベルトは長さを調整することでまだ使えるかもしれませんが、念のため手配した方が良さそうです。次に下糸用の「ボビン」が見当たりません。ボビンだけとっても機種によってさまざまな種類があるようです。

ゴム輪はボビンに糸を巻くために必要です
 

いろいろと調べて、次のものを手配しました。

・ゴム輪:外形28mm、内径15mm、幅7mm (308円)

・皮ベルト(念のため):190cm、φ6mm (1,414円)

・ボビン:家庭用垂直釜半回転用のH-1型(11.5mm)金属製ボビン (10個、659円)

・ボビンケース(念のため):家庭用垂直釜半回転用のH-1型 (1,089円)

・針: HAx1 #11(黄)薄~中厚手用 5本入り (374円)

            HAx1 #14(赤)中厚手用 5本入り (374円)

・ミシン油 100ml (374円)

合計:4,592円 + 送料275円 = 4,867円

いよいよ作業開始です。まず、ミシン本体をキャビネットテーブルから外し、変質したゴム輪を削り落とすところからです。ゴム輪は糸巻き器用でボビンに糸を巻く(下糸を巻く)ためのものですが、ゴムが劣化してホイールにこびり付いているので、簡単には取れません。電動ルーター(リューター)にワイヤーブラシを付けて削り落とそうと思うのですが、ミシンの他の部分に削りかすなどが入り込む恐れがあるので、糸巻き器を取り外して作業することにしました(分解はこれだけで済むのか?)。

この電動ルーターのワイヤーブラシは優れモノで、ミシンの金属部分の汚れは、ほとんどこれできれいになりました。一部、サンドペーパーを使わなければならなかったところもありますが。可動部などの埃はミシン油を染み込ませた布で拭き取っていきます。

電動ルーターとワイヤブラシ
 

紙やすり
 

一通り掃除したところで基本機能が動作するかを確認しようと、上糸の取り付け方を調べていて、糸取りバネとうい糸を通すための細いピアノ線が折れてなくなっていることがわかりました。せっかくここまで手入れしたのに、この小さな部品一つのために諦めるということはあり得ません。似たような細いピアノ線を買ってきて自作しようかと思っていたところ、この部品を売っているところが見つかったので早速手配です。(498円+送料200円)

この糸取りバネを取り付けるためには、糸調子器というものを外さなければなりません。糸調子器を外すのが厄介そうだったので面板(フェイスプレート)を外すことを諦めていたのですが、糸調子器を外すついでに面板も外して中まで掃除します。(どんどんと分解しなければならなくなっていく)

糸取りバネを取り付けて糸を通したところ
 

次に下糸(ボビン)も取り付けて上糸が下糸を拾ってくるか試したところ、新しい針と新しいボビンケースを使うとなんとなくうまくいっているようです。ただ、いまだにハンドルがかなり重いのが気がかりです。布を送るための送り歯がうまく動いていないように見えたので、針の下にあるカバー(針板、ニードルプレート)を取り外すとゴミがいっぱい詰まっていました。それはミシンを使い込んだために溜まった、布から出た粉のようです。丁寧にゴミを取り除いて送り歯を磨いたのですがまだ動きは重く、ところどころ重たくなるところがあります。この状態でペダルを使って回せるかを試すために、緩くなった皮ベルトを2cmほど短くして繋ぎ直しセットしてみました。しかし、ペダルを踏んでベルトを回してもハンドルが重すぎて滑って空回りしてしまいます。

(ちなみに、送り歯があまり動かなかった件については、布を進める速さを調整するレバーが付いていて、これでコントロールできることがわかりました。)

ボビン
 

あと手入れしていないのは、分解するのをためらっていた釜と呼ばれる下糸を繰り出す部分です。調べると簡単に外せることがわかったので、釜を外して掃除し可動部分にミシン油を差して元に戻します。それでも多少改善しただけでハンドルは重いままです。結局、分解できるところはすべて分解掃除することになっていました。異音がするわけでも大きな引っ掛かりがある訳でもないので、油が固まって重たくなっているのだと思われます。それであれば、温めれば良さそうです。最悪の場合はバーナーで温めようかとも。

そして、ほかの可動部にも念入りに油を差して2日間放置したところ、あら不思議。嘘のようにハンドルが軽く回るようになりました。皮ベルトをかけると足踏みで軽快に動きます。

あとは実際に布を縫いながら上糸と下糸のテンションを微調整して完了です。

分解が大変そうだった釜
 

結果的に、使えるようにするためにほとんどの部分を分解した訳ですが、その構造がすばらしい。一つの回転動力で、針の上げ下げ、上糸送り、下糸をうまいこと上糸に絡ませ、さらに布地を送るという、さまざまな動作を絶妙のタイミングでおこなうのです。まさに神業としか言いようがありません。そして動力は人力。なんとエコなのでしょう。まさに、これが究極の未来だと思うのです。(所さんのセリフじゃないですが)

ミシンの内部
 

そして思うのです。世にあるミシンの構造を全く知らずに、一からミシンを作れる人が現在に存在するのだろうかと。木製のテーブルや引き出しも細かな工夫がされていてとても良くできています。当時は相当高価だったのでしょうが、100年も使えたら元は簡単に取れるでしょう。

現代は使い捨てるために脆弱なプラスチックで作られ、バッテリーを埋め込まれた、修理できないものであふれています(だから時計も直せなかったのかも)。廃棄にも困ることを知っていながら生み出されていく、一定期間で壊れて使えなくなるように作られた製品。すぐにモデルチェンジして修理部品もなく、新品を買った方が安いですよと言われる世の中。次々とゴミやそれにまつわる問題を生み出し、それを解決するためにさらに多くの新たな問題を生み出すという悪循環。これが豊かな暮らしなのでしょうか? 果たしてこれが本当に望むべき未来なのでしょうか? 多分、いまの時代には100年使えるものは必要とされていないのかもしれません。サステイナブルとかエコとかいうけれど、欺瞞に満ち満ちています。本当に必要なものなのか、ただの商業的な便利の押し売りなのかを見極めるべき時が来ているのではないのでしょうか。

そうは言っても私も文明の利器であるネットを駆使してミシンを修理したのですから全くの偽善者なのですが。困ったものです。

最終的に88年経って交換が必要だったのはゴム輪ひとつだけでした。念のため針やボビンケースも交換しましたが、修理にかかった費用は、予備の部品も含めて6,000円程度でした。家内はとても喜んで、時間を見つけてはミシンを使っています。この歳になって夢がかなっていくのは感慨深いと言っているのを聞くと嬉しくなります。私は88年前のマシンが使えるようになったことにかなり感動しています。

稼働中のミシン
 

インテリアとしても優れています
 

そのうち時間を見つけて木製のテーブルと鉄製の脚部の塗装もしたいと思っていますが、いつになることやら。

 

 

 

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